コンクリート診断士試験を受験しました

概要

2023年度コンクリート診断士試験を受験し、無事合格できましたので試験について書き記しておきたいと思います。

コンクリート診断士の概要

資格について

コンクリート診断士は日本コンクリート工学会が認証する資格で、コンクリート診断士試験に合格し登録手続きを行うことで付与されます。

(資格)
第2条 公益社団法人日本コンクリート工学会(以下「本学会」という。)は、この規則に基づき本学会が実施するコンクリート診断士講習(以下「講習」という。)を受講し、コンクリート診断士試験(以下「診断士試験」という。)に合格し、かつ、登録をした者に対し、登録有効期間中「コンクリート診断士」(以下「診断士」という。)の資格を付与する。
2.診断士は、コンクリート及び鋼材等の品質劣化等の診断における計画、調査・測定、予測、評価、判定及び補修・補強・更新対策並びにそれらの管理、指導等を実施する能力のある技術者とする。

公益社団法人日本コンクリート工学会 コンクリート診断士制度規則(令和4年5月24日改正)

民間資格に分類される資格ですが、国土交通省の「公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格登録規程」の登録資格になっている上、その登録資格の中でも試験の受験者数も多い資格のため、建設分野において比較的認知度のある資格と言えると思います。

試験について

コンクリート診断士試験は毎年1回実施されます。試験時間は3時間で、2023年度時点では以下のような試験内容となっています。

試験方法 形式 問題数
四肢択一式問題 4つの選択肢の中から適切な正解肢を選び、マークシートにマークする 40問
記述式問題 問題Ⅰおよび問題Ⅱのいずれかを選択し、1000字以内で記述する 問1~3の3問(合計1000字)

具体的な合格基準は公表されていませんが、四肢択一問題および記述式問題のそれぞれで基準点を超えることが要件とされています。

受験者数や合格率は以下に掲載されており、例年15%程度の合格率のようです。

試験受験まで

受験申込

受験申込の手続きは下記のページに例年掲載される通りです。

受験には講習eラーニングの受講が必要で、受験申込とは別途講習eラーニング受講申込を行います。この申込締め切りが2023年2月13日までだったので、試験の半年前程度から手続きが必要ということになります。

4月の初め頃にテキスト(コンクリート診断技術‘23)が届き、2023年4月7日~5月19日の期間で講習eラーニングを受講します。この講習は各自のPCやスマホで動画を視聴し、全ての講習を完了することで受講修了証が発行されます。

その後、講習eラーニングの受講修了証や受験資格証明書等の必要書類を揃えて、受験願書を2023年4月3日~5月22日の期間に提出します。私はコンクリート技士資格の登録を受験資格として申し込みました。

試験勉強

試験勉強は講習eラーニングを受講しつつ4月頃から始めました。基礎知識から学習が必要だったので、テキストを使ってコンクリートの各種変状(塩害、アルカリシリカ反応、中性化、化学的侵食)等の基礎事項を中心に整理するところから始めました。

講習eラーニングはテキストの内容を機械音声が淡々と読み上げるだけなので、これ自体はあまり理解の助けになるようなものではありませんでした。講習eラーニングはあくまでテキストを最初に読み進める時のインデックスとして、具体的な内容はテキストを読んで理解するようなイメージで使っていました。

最低限の基礎知識が整理できてきたところで、下記の問題集の5年分(2018~2022年)の四肢択一式問題を解きながら、理解の浅い部分をテキストで確認することを繰り返し行いました。具体的な数は数えていませんが、5年分を5回程度は繰り返し解いたような気がします。

また、私が補修の現場経験が無かったため、各種補修工法そのものや関連用語について直感的なイメージが湧きにくいということがありました。そこで、 YouTube の KONISHI BOND ch に補修工法の施工の様子や補修材料が紹介されている動画を見ました。単語で覚えていたものが映像のイメージで思い出せるようになり理解の助けになりました。以下の再生リストに補強・補修工法の動画が整理されています。

試験の1か月前くらいからは記述式問題の対策も始め、原稿用紙を使って上記問題集の模範解答の書き写しや自分なりの解答を記述する練習をしました。記述式問題で必要となる知識は四肢択一式問題でも問われるような各種変状の原因から調査方法、対策の対応関係についてが主なので、必要知識としては四肢択一式問題の勉強を十分に行っていればカバーできるのかなと思います。記述式問題の対策としては問いに対する解答を文章として記述することや原稿用紙の使い方に慣れるというところがメインでした。

試験当日

試験日は2023年7月23日(日)で、試験会場は早稲田大学早稲田キャンパスでした。試験時間は13:30~16:30の3時間です。

最初の80分ほどで四肢択一式問題を解いて、わからない問題は残したまま記述式問題に移って80分程度で記述し、残りの20分で四肢択一式問題を再度確認するというような時間配分でした。

四肢択一式問題

単純に過去問5年分を把握しただけでは難しいと感じるような問題も多く、事前の勉強では原理的なところや周辺知識も理解しておく必要があると再認識しました。解き終わった際に7割程度は正解している感覚はありましたが、万全を期すのであればさらに昔の過去問が掲載された問題集も入手してより多くの出題パターンを把握して臨むのがいいのかなとも思いました。

記述式問題

記述式問題は問題Ⅱを選択しました。過去問と比較して、記述する項目の数が細かく指定されているという点はやや面食らいましたが、記述する前に整理した項目を淡々と記述していけば解答欄が埋まっていくのでやりやすさも感じました。

解答にあたっては以下のように項目を整理した後に文章で記述しました。解答用紙の最終行まで記述し、文字数としては990字程度だったと思います。

[問1] 変状原因と理由
変状原因 理由
A部 凍結防止剤による塩分を含んだ水分のシース内への侵入によるPC鋼材の腐食と、シース内の水分の凍結および膨張によるひび割れ 冬季に凍結防止剤が散布され塩分の供給があること。床版に防水層がないこと。ひび割れから錆汁の漏出が見られること。A部が横断勾配下側で橋面上で滞水しやすい位置であり、なおかつ支間中央部から縦断勾配やや下側のシース内で集水しやすい位置であること。
B部 凍結防止剤による塩分を含んだ水分の間詰め部からの漏水による下側鉄筋の腐食・膨張によるかぶりコンクリートの剥落 冬季に凍結防止剤が散布され塩分の供給があること。床版に防水層がないこと。間詰め部に位置していること。横締めのPC鋼材に断面欠損が生じていないこと。下側鉄筋のかぶり部分の剥落であること。

どちらも塩害による変状ですが、塩分を含んだ水分の侵入経路が異なるという点に着目して記述しました。

[問2] 調査の目的と方法
目的 方法
A部 シース内のグラウトの充填確認 打音検査
PC鋼材の腐食分布の把握 自然電位法
排水設備の機能や漏水箇所の確認 目視点検
残存強度の把握 反発強度法

問1で挙げた通りA部はシース内への水の侵入が主に考えられるので、シース内のグラウトの充填確認として打音検査を挙げました。問3で補強工法を挙げることを考えていたので、構造性能に関する調査として残存強度の把握を目的に反発強度法も挙げておきました。

EPMAなどの塩化物イオン濃度分布の調査も候補にはなると思いますが、シース内への水の侵入によるシース内の鋼材の腐食であるため、コンクリート自体の塩分浸透としては局所的で、塩化物イオン濃度分布を把握する意味は薄いのかな?と思って挙げないことにしました。この考え方が適切だったかどうかはわかりません。

[問3] 対策と理由
対策 理由
主桁 ①シース内のグラウト再充填 劣化因子の侵入防止
②排水設備の更新 水分の侵入防止
③外ケーブル補強 今後50年の供用に向けた構造性能の確保
床版 ①断面修復 劣化因子の排除によるマクロセル腐食の予防
②防水層の設置 水分の侵入防止
炭素繊維シート補強 今後50年の供用に向けた構造性能の確保

主桁・床版いずれも劣化因子の除去・侵入防止という観点を重視して対策を挙げました。設問に今後50年間の供用を予定とあったため、長期的な構造性能の確保も必要という観点から補強工法も1つずつ挙げることとしました。

主桁の対策として断面修復を挙げるかどうかは少し迷ったところですが、問1,2で水分の侵入に関する記述を多くしていたこととの対応を意識して水分の侵入防止を中心に挙げることにしました。また、断面修復は床版の対策で挙げることにして、変状に合わせた様々な対策を提案できることをアピールする意図もありました。

合格発表

2023年9月15日(金)に日本コンクリート工学会のホームページで合格者の受験番号が発表され、無事合格していました。同時に四肢択一式問題の正解も公開されており、自己採点で30/40という結果でした。

感想

以前に受験したコンクリート技士試験と比較してコンクリート診断士試験は原理に基づいて解答するような問題が多いため、勉強を進めるに従って体系的な理解が深まっていく感覚があり、試験勉強はやりがいが感じられました。